昔の思い出

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絵津子は今日、東京を離れる。 そして、小さい頃に住んでいた場所に戻ることになったのだ。 鹿児島県伊佐市。 鹿児島県の北部に位置し、金の産出で有名な場所だ。 彼女はそこで生まれ、小学生の頃まで住んでいた。 しかし、親の仕事の都合で東京に引っ越すことになり、それから10年近く東京で生活していた。 今回、彼女が伊佐市に戻るのには理由がある。 今年の初めに父親が病気で亡くなってしまった。 その父親の墓を伊佐に作ることにしたのだが、そのときに母親が「このまま伊佐に引っ越しちゃおうか。」と言い出した。 絵津子はそれを快諾したのだ。 友達と離れるのは寂しかったが、伊佐で暮らしていたときの方が絵津子には気が楽だった。 そして、絵津子にはどうしても行きたい場所があった。 昔の大切な友達、そして初恋の相手である、衣川優太の家である。 優太の母親から連絡が来たのは去年のことだった。 久しぶりの連絡に絵津子は喜んだ。 しかし、その気持ちは一瞬で崩れ去った。 《優太がいなくなった。》 詳しく話を聞くと、本当に突然いなくなったのだ。 趣味の写真を撮りに行くと言ったまま。 直ぐに警察に失踪届を出したが、未だに情報は来ていない。 生きているのか、死んでいるのかも分からない。 優太の母親は泣きながらそう教えてくれた。 絵津子はその話を聞いたとき、頭が真っ白になった。 ショックで食事も喉を通らない状態が続いた。 そんなとき、伊佐に引っ越すことを母親に聞いた。 チャンスだと思った。 警察は当てにできない。 自分で探すしかないと思ったのだ。 「よしっ。」 今まで住んでいた部屋には、もう何もない。 荷物はすべて引っ越しのトラックに詰め込んだ。 この家には本当に世話になった。 「今までありがとうございました。」 絵津子は一礼すると、部屋を出ていった。 部屋の中には、若い男性が笑顔で立っているだけだった。
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