懐かしの地へ

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「…着いた。」 東京から約16時間。  絵津子と母、絹枝(きぬえ)はやっと目的の場所に到着した。 鹿児島県伊佐市。 そして、新しく住む家。 今日からここで新しい生活が始まるのだ。 しかし、絵津子にはそんなことよりも気になることがあった。 優太の母、香住(かすみ)のことだ。 電話の声を聞く限り、かなり参っている様子だった。 それはそうだ。 大事な1人息子がいなくなったのだから。 「(何処にいるの?優ちゃん。)」 絵津子は心配で仕方がなかった。 家の片付けを簡単に済ませ、絵津子は衣川家に向かった。 香住から家の住所は前もって聞いていた。 歩くなかで、昔とは変わった景色、変わっていない景色があった。 しかし、絵津子はその景色には目もくれず、足を進めた。 絵津子の頭の中には、優太の顔が思い浮かんでいた。 ピンポーン…。 「…はい。」 「おばさん。お久しぶりです。」 「!。…絵津子ちゃん?」 ドアが開くと、香住が出てきた。 久しぶりに見た顔は、とても疲れているように見えた。 「…久しぶり。ずいぶんと綺麗になったわね。」 「そんなことないですよ。」 「ここで話すのもなんだから。さぁ、中に入って。」 「ありがとうございます。」 絵津子は衣川家に入った。 家の中は随分と涼しい風が吹いていた。
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