懐かしの地へ

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絵津子は香住とたくさんのことを話した。 東京での生活のこと、学校生活のこと、将来のこと。 絵津子の話を聞いている香住は笑顔だった。 けど、その笑顔はやはり寂しげに見えた。 「…あの、おばさん。優ちゃんのことなんですけど…。」 「…警察からはまだなんの連絡もないわ。もちろん優太からも。そもそも、警察は事件とかじゃないとまともに捜査してくれないみたい。」 「そうですか…。」 「全く、あの子は何処ほっつき歩いてるのかしらね。」 香住はそう言って窓の外を見た。 その目は空ではなく、そこには見えない別の何かを見ているようだった。 絵津子には香住を励ます言葉が見つからなかった。 自分も同じような気持ちだったからだ。 久々に会った2人の間には、重い空気が流れていた。 その日の夜、絵津子は絹枝と一緒に夕食を食べていた。 部屋の中はまだ段ボールが積まれていた。 絵津子は中々食が進まなかった。 「…絵津子?」 「ん?」 「大丈夫?」 「うん。平気。」 絹枝には優太のことは既に伝えてあった。 「大丈夫よ!優太君なら。前みたいにひょっこりと笑顔で現れるわ。」 「…うん。」 その日の夜、絵津子はベッドで眠りについていた。 ガタッ。 引き出しが音を立てた。 「ん…。」 絵津子は物音に目を覚ました。 部屋を見渡すが何もない。 「…気のせいかな。」 ガタッ。 「えっ!?」 ガタカタッ。 「な、なに?」  ガタカタガタカタッッ。 部屋のありとあらゆるものが音を立てて動いている。 絵津子は毛布を被った。 しばらくすると、音が止んだ。 絵津子は毛布から顔を出した。 部屋は静かだった。 「(…地震かな。)」 その日はそれ以降、揺れが起きることはなかった。
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