押し上げた部長の高み

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「興味をそそるな。おまえの動機が全く分からない」 唐突に言われて運転していたハンドルを握りながら横顔を凝視した。 「前、向いて」 「あ、はい。すみません」 卓屋(しょくや)部長、あなたが変な事を言うからですよ。 「だって、秘書免許準1級を持っているんだろ。営業部に就いて半年か。今更だけど、どうして社長秘書を希望しないの。勿体なくないか?」 「資格は別に。ただ、営業の仕事がしてみたかったんですけどね」 「ふうん」 納得していない感じの声だな。まあ、それはそうだろう。 学生時代に友人から資格は沢山あったほうが就職活動に有利だぜとアドバイスされて、資格を探したら色々あるもので正直何が使えるのか分からなかった。 個人的にはフードコーディネーターの資格に惹かれたが年を重ねてからでも取得出来そうだし、何より就職活動に箔が付くとは思えない。 無難に英検を取っているので、秘書かなと選択して、筆記問題の一次試験を通過し、面接試験を含む二次試験で、応募数の3割しか取得できない資格に合格した。 この商社は自宅から電車で3駅なので、楽かなと応募し、採用されてまだ半年だ。 希望は営業職。それなりに肩書が欲しかった。深く考えずに、流されているなとは思う。 「普通は女性が秘書を希望して、資格を取るだろ。何で秘書免許を取ろうと思った?」 「あまり深く考えなかったです」 「正直すぎる」 じゃあ何て言えば。 「営業職に就きながら足元が落ち着いていない。俺にいつまでもついて回れる訳じゃない。そろそろ1人で回らないといけなくなるし、いずれは部下がつくんだよ。覚悟しないと」 僕に部下ですか。無謀じゃないですかね。 ついつい甘えてしまう性格的に人を教育出来そうにありませんが。そんな事は言えないか。肩書は欲しいし迷えるところだ。そもそも僕に肩書がつくだろうか? 元から間違えたような気がするな。 「腹を決める事。俺はいつまでも、おまえの側にはいないんだ。分かるか?」 僕の上司である、部長職・卓屋 弥(ひさし)さんは突き放すような言葉を重ねながらも声音が穏やかで、さすがに疎い僕でも『心配させてる』と感じた。ハンドルを握りながら、行き先が見えないままだった。 「コンビニ寄ります?」 「……おまえな。下鳥(しもと)、話を聞いてたか? その流す感がまずくない? おまえが寄りたいんだろ。駄々こねて。まあ、でも寄って。紅茶飲みたいから」
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