押し上げた部長の高み

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「固定の取引先回りもそろそろ一段落させて、若手に任せないと」 車内でペットボトルの無糖の紅茶にペーパーストローを差して飲む卓屋部長に「もしかして僕にやらせる気ですか」と唸った。 「やりたくないの?」 一瞥されて返答に窮する。 「仕事、だよ?」 押し付けはしない人で圧はない。だけど30才手前で管理職なんて、社内は勿論、取引先にも顔が利く敏腕な卓屋部長は諭すように話す。営業で色々な人と立ち回るから慣れているんだな、と思う。 「入社以来、俺について回って半年か。何か見つけた?」 読まれているのかな。 「悩んでいるなら黙っていないで相談して。下鳥は燻っていたら駄目だと思う」 そうですよね。 「聞いてもいいですか」 「何でも」 「卓屋部長はどうして営業職に?」 「俺の事か」と吹き出した。 「逆に聞いちゃうけど、どうして聞きたいの?」とまだ笑ってる。 30才手前にしては童顔だよな。背は僕より高いけど、普段何を食べているか知らないけど細すぎる。 あまりにも長く一緒にいるから時々上司と言う事を忘れる。 それは僕が社会人としてよろしくないとは自覚してる。でも、あまりにも穏やかで話しやすいから卓屋部長もいけないんじゃないですかね。僕を可愛がり過ぎですよ。舐めてますかね。 「卓屋部長なら、販売職とか似合いそうな気がして」 「学生の時はショップで店員のバイトをしたし、そのショップのHPで服着てモデルまがいもしたな」 そうでしょ。その容姿ならスタッフになれます。今でもこれなら若い頃はもっと可愛いでしょ。 「だから、会社員を選んだ」 はい? 「店員の経験をして、営業職を選択した。人と話して実際に手元には無い商品を売り込む事に専念してみたかったんだ」 「意味が分かりませんが」 「店員は実際にあるものを販売する。見せて売る。だけど営業は違うだろ? サンプルは持ち込むけど大体のプレゼンは口頭。そこで決められたら面白いと思って。実際そう。人生の選択に後悔していない」
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