押し上げた部長の高み

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「下鳥は卓屋部長とついて回って、半年か?」 普段は話す機会の少ない課長に呼ばれて「そうです」と固い返事をした。緊張する。卓屋部長ならいつも一緒だから気軽なんだけど、あまり会話を重ねていない相手だし強面だからな、この課長。 「どう?」 「はい?」 「そろそろ1人で行けるか、営業に」 突然言われて困窮した。しかし当然だ。いつまでもついて歩く訳にはいかなかった。 「すみません。正直に申し上げると自信がありません。自分は卓屋部長みたいに立ち回れないと思います」 「そんな甘い事を言っても困るな」 だろうな。 「まあ、卓屋部長みたいにすぐ成れとは言っていないんだ。そんな事は無理だと分かってる。ただ、下鳥は営業職なんだから1人で行動出来ないと給料を払う会社としては、不適格と烙印を押さざるを得ない。ここは学校でも遊び場でもない。働きに来ているからな。出来ない・自信がないで通じる話じゃないぞ。やる気がなければ脱落する」 「……はい。自分の考え方を改めます」 「納得している顔じゃない。卓屋部長に甘えすぎたか。あの人は周りにもやさしすぎる、下鳥なんてかなり庇われていると思う。ここら辺で独り立ちしないと、ずるずる行くぞ。卓屋部長にも負担だし、あの人はそろそろ内勤でもして、主任を動かしたほうが人材育成に繋がるんじゃないかな」 卓屋部長本人も、そう言ってたな。 僕はお荷物か、それはいけないよな。 「卓屋部長に育てられた、それは下鳥の励みだろうし、自信を持っていいと思う。あの人は優秀だ。誇りに思えよ、部下として同行出来た事に」 その話し方なら、もう独り立ちは決定だな。 寂しくなるな。業務に自信が無いのもあるけど、心の中で甘えていた。いつまでも同行出来ると思い込んでいた。学生気分が抜けないのかな。 卓屋部長が穏やかな人でなければ、きっとこんな風には思わないだろう。上司について回る事に嫌気がさすと話した同僚がいた、その思いが全く理解出来なかったのは、僕が恵まれていたからだ。
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