押し上げた部長の高み

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もしかしたら今日が最後の同行になるのかも知れないと感じながら卓屋部長に付き従った。気が重い、何をしていても頭から離れない。いよいよ1人で営業活動か。全く、自信がない。 「では、今後ともよろしくお願いします」 卓屋部長が先方に一礼したので、慌てて合わせた。 「上の空だな、下鳥。話は聞いたんだ?」 営業車に乗ろうとドアハンドルに手をかけたら、卓屋部長が問いかけて来た。 「はい。自信がなくて悩んでいます」 「準1級だろ。自信持てよ」 はい? 「あれ? その様子だと勘違いしてるな。朝礼も聞き流していたな」 何かあったかな? 「まあ、乗ろうか」 「あ、はい」 卓屋部長がしなやかに助手席へ乗り込む、この姿を見るのも今日が最後か。 「まだエンジンかけなくていい。俺から話すよ」 「はい、何でしょう」 「内内では動いていた話だけど。急ではあるんだけど、社長の秘書を担当されていた竹内さんが来月末を持って寿退職されるんだ。それが朝礼での発表」 全然、頭に入っていなかった。 しかし、本当に急なお話だな。お祝い事だから、お会いしたら『おめでとうございます』と言わなくちゃ。聞いてよかった。何も言わないと失礼だからな。竹内さんてかなりの美人だったな。 「それで本来なら秘書を経験しているものを募集するところだけど、下鳥が準1級の資格を取得しているから、どうかと思って」 「はいっ?!」 「俺から社長に打診したいんだけど」 「待って下さい! あの、あのですね?」 「どうかな?」 笑顔で言われても。 あなた、自信があるんですか? 僕なんかに勤まると思うんですか? それよりも、僕を営業部から放り出す気なんですか。寂しいんですけど。 「混乱しているな」 「当たり前です! どういう経緯ですか、僕は資格は持っていますが実務経験がありません」 卓屋部長に放り出されて知らない場所で生きていく自信もない。 「俺に同行している経験で、使えると判断した。下鳥、これはおまえにとって好機だ。折角取得した資格も使えるし、下鳥の持つ性格の良い面がいかんなく発揮出来る」 「お言葉ですが、半年しか同行していませんし、僕は何もしていないと」 「下鳥。半年も、だ」 え? そういう考え方ですか。 「半年も俺と同行した。それは自信にならないか? おまえは自分を抑え込んでいる。良い場所で才能を発揮したらいい。俺が下鳥を高い場所へ連れて行ってやる」
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