1◇ぬいぐるみ、襲来

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1◇ぬいぐるみ、襲来

 気温三十五度を上回る日々が続く夏休みも、気がつけば八月に入っていた。  成績は中の中。特にコレといって目立つこともない、ごく平均的な中学生活も二年目で、せめてもの救いは、帰宅部でも目くじらたてない寛容……、言い換えれば、放任主義の両親に生温かい目で見守られてることくらい。過度に期待もされず、かといって、尻を叩かれることもない。  自由でダラダラとした夏休みが、八月末まで続くはずだった。  毎朝九時過ぎまでゆっくり眠る。ジリジリと照りつける朝日で急上昇していく室温に耐えられなくなってから、ガバッと起きる。  気に入りの音楽をipodで再生し、今日は何しようか、誰と遊ぼうか、ベッドの上まで朝食をトレイごと持ってきて、スマホいじりながら飯を口にぶっ込んでいく。  朝から気温は二十九度、セミは絶え間なく鳴いてるし、風もない。母ちゃんもいい加減体力尽きたらしく、 「スーパーまで、涼みに行ってくるわぁ」  どうせ金なんかほとんど入ってない財布持って、毎日そそくさいなくなる。  銀行も役場も設定温度上げてる中で、生鮮食品扱うスーパーだけは、未だに設定温度低いらしく、主婦の格好のたまり場になっているとか何とか。
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