幸せのあおいさかな

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手製のポスターを商店街中に張り出し、今日に合わせ、仕入れから陳列、チラシ配りなどなど、全社一丸となって邁進してきたのに、当日になっての青の裏切りは最悪の結末を予見した。 ーーーここで説明しようーー 青とは、鮮魚担当主任、溝口君 46歳。 女房一人、子供は三人。ここでは店長の次に年長者。高校を卒業と同時に入社、以来、魚一筋。温厚で人当たりのいい、声のでかい、色が浅黒い、背は高くも低くもない、ハチマキとビニールの前掛けと白い長靴が似合うごくフツーのどこにでもいるような男である。 ------- 「どうしよう・・・チラシ出しちゃったのに、今更間に合いませんでしたなんて言えないよ・・・。」 「店長・・・」 一同、鮮魚コーナー前に集まり、空っぽのケースを見ながら作戦会議。 といっても、一番手に入れにくい鮮魚を当日の開店3時間前に用意するなどできようはずもなく、ただ呆然とする以外、手立てがなかった。 「でも、うちの売りは野菜っす。野菜は店長がガツンと仕入れてくれたんで大丈夫っすよ。何とか乗り切れますって。」 「そ、そうかな・・・でも、お魚がないって怒られないかな・・・」 「大丈夫っす。肉もガツンと仕入れましたんで。お任せください。 そもそも、今は魚より肉っす。子供だって魚より肉のほうが好きでしょ。魚の入荷がない分は肉でカバーっす!!」 -----この男は 赤。 精肉担当主任 山口君 35歳 子供一人、嫁無。離婚歴1。 大卒でここへ入社。 おまえならもっといいとこ就職できただろ・・・とよく言われるが、彼は就職氷河期真っただなか世代。しかも、大学在学中に子供ができてしまって、『もう、どこでもいいや』と思い入社。同時に結婚したが、1年もせず嫁に逃げられた。 男手一つで子育てと両立するには、この会社はとても暖かかった。『熱を出せば仕事場の休憩室に連れておいで』と言われ、パートさんがかわるがわる休憩時間を利用して見てくれる。 休日欠勤しにくい主任という立場だが、運動会や文化祭などの行事には、率先して休日を取らせてくれる。参観日、親子遠足も、一度たりとも欠かしたことはない。そんなこんなの恩義を感じ、身を粉にして働き。ここへ骨を埋める所存なのである。 -----
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