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「社長・・・青さんが失踪って・・・・」
そのとき、総務の明知さんがそーっつとやって来た。
「いや・・・まだわからないんだ・・・でも、今のところ出社していないのは確かで、刺身ケースも空っぽ。鮮魚冷蔵庫も空っぽなんだ・・・どうしよう・・・」
「普段なら1番に出社して準備している人ですからね・・・」
明知さんは先代の時からいる。とてもやさしくてみんなの愚痴をがっつり受け止めてくれる深い懐の持ち主!
「明知さん、青君から何か聞いてない?何かとても悩んでいたとか・・・体がつらいとか・・・どんな些細なことでもいいよ。」
「いえ、特には・・・悩みなどは聞いておりませんが・・・」
「ほんと?そうならいいけど・・・青君が何かに悩んでいて、失踪したなら、僕は社長失格で怒られちゃうよ・・・あー胃が痛い・・・」
どこの会社でも、社長になるからにはそこそこの覚悟はいるものだ。
もちろんこの会社にも先々代から伝わる厳しい教えがあった。
『社員の幸せは地域の幸せ。地域の幸せはお客様の幸せ。お客様の幸せは私の幸せ』
これは、初代社長から伝わる社訓だ。
最初は皆「えっ?」と思うような、理解しずらい社訓だが、ここの社長は代々、大真面目でこれを受け継ぐ。
社員は、ほぼ地元の人間だ。多々ある会社の中からわが社をよくぞ選んでくれました。ともに働き、幸せになりましょう。あなたの幸せ失くしては、地域もお客様も幸せなど感じてはいただけません。幸せの根本はあなたにあるのですよ。
そうした暖かい心があることを、そしてそれをきれいごとで終わらせない覚悟がこの会社の社長には必要なのだ。
跡取りと決まったその日から、厳しくそれを教え込まれてきたのに、彼の異変に何も気づけなかった・・・
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