本当の私。

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 存在感の無い人がいる。私もその一人。所謂「陰キャラ」。会社では雑用を押し付けられる時ぐらいにしか言葉を交わさない。誰とも目を合わせない、合わしてくれない。  今はそう。お日様が上っている時は、影のように生きているの。そんな私が輝くのは、夜。月が真上から日本を見下ろす時。真夜中。  カツコツ、と靴音を響かせ、私はアスファルトを歩く。手ぶらで、少し肌寒くなってきた気候に合わせて新しく買ったコートを着て。  丑三つ時。流石に出会う人もほとんどいない。そんな無人のような街を、私はひたすら歩く。コンビニなんて明るい場所には足を向けず、ただひたすら薄暗い電灯が照らす道を選んで。  と、角を曲がったところで青白い光が見えた。スマホの光に照らし出されるのは、残業すると言っていた会社の同僚。面白いサイトでも見つけたのか、にたにたしながら歩きスマホ。  私はその人の前まで足音を潜めて歩くと、ぴたり、と止まった。 「ん?」  同僚が顔を上げたタイミングで、勢い良くコートの前を開く。  月光に、白い肌が光る。 「……うわぁぁぁぁっ!?」  間の後、同僚は近所迷惑な声を発しながら元来た道へと走り去った。 「……うふっ」  見てくれた。いつもはそんなにじっくり見てくれないのに。どうだった? 本当の私。綺麗でしょ? 肌はきめ細かいし色白だし。この肌には、月の光が良く似合うと思うの。  私は込み上げてくる笑いを手で押さえつつ、太股を擦り合わせた。そこは、夜露のようにしっとりと濡れていた。
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