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「お父さぁ、ほれ、通いの除草作業。」
「おう、暑かったで、忘れてしもた。」
薬局を営む父が、母の一声に慌てて店を出ていく。
「お父さぁ、これ終わっておらんど。」
高校一年生の絵里香は塚田薬局の一人娘。伊佐市の公立高校に通っている。明日は商店街の夏祭りのパレードで店の展示を手伝っていた。
「愛媛のミカンジュース、どこに置けばよか?場所を取いすぎうど。」
絵里香は店内を見まわして、ため息をついた。
母が清掃用具を片手に持ちながら、言った。
「毎年、ミカンジュース、人気があうからね。真ん中に置いたら?」
母も除草作業に出て行った。
絵里香は言われた通り、店の入り口近くに設置されたテーブルに、ミカンジュースの瓶を7本並べてみた。横に一緒に並んでいるスピルリナの箱よりも大きいのだ。他にはサランラップの箱の山とスナック菓子の詰め合わせの袋が無造作に置かれていた。
「これで売り上げアップになうとよかけどね。」
と呟くと、外から入って来た時の見た目を確認しようと、外へ出た。両腕を組んで、店内の様子を観察した。今日も良すぎるくらいの天気で、陽ざしが肌に痛い。日焼け止めを塗ろうと戻ろうとしたときに、後ろから呼び止められた。
「すみません、ちょっといいですか?」
変な発音だと思った。振り返ると、背の高い外国人が自分を見下ろしていた。目が青い。というよりは、空色だった。
「はい?」
少しパニックになった。日本語は最初だけで、外国語をしゃべられると思ったからだ。
空色の瞳の彼は、店の前の街路樹の辺りを指さして、言った。
「あの、ここに、わたしの絵を置かせてもらってもいいですか?」
絵里香は、相手が日本語を喋り続けてくれるので安堵した。
「ええと、私が決めるわけじゃなくて、あー、どこに?」
父にいつも、店番をしているときに来たお客さんの名前くらいは聞いておくように、と言われていたことを思い出した。
「あの、お名前は?」
「すみません、ジョン・ウォーカーと言います。ダムの近くに滝、あるでしょ?わたし、そこの絵を描いています。いくつか作品を持ってきた。明日、パレードあるでしょ?」
片言の日本語だったが、彼が言おうとしていることはわかった。
「あなたの絵を売りたいということですね?いいと思いますけど、連絡先を教えてもらえますか?」
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