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「僕は、救世主ではありません」東丈は、開口一番、そう言った。
ここは、青林学園高等部の講堂である。文芸部の分科会超常現象研究会、通称”GENKEN”が自主講演会を敢行したのだった。
正直、学園側としては、こうしたキワモノの講演会など、望ましいものだと思うはずもなく、実際、文化祭のときならば、”出し物”として黙認する場合もあったのだろうが、そんなものとは関係なく、異常な学園内の”うねり”を沈静化するために、已む無く許可したというのが実態だった。
超常現象とは、まさに、少年の漫画誌の巻頭特集のページを飾る、ネッシーとか空飛ぶ円盤とか超能力とかいった、与太者のイメージであった。そんなものを研究する者達にたとい学園の生徒に対しても、場所を貸すというのは、あまりにべらぼうな話で。許せば、むしろうるさ型のPTAの中で怒鳴り込んできそうな人物を思い浮かべるのは、おそらくどのような電子計算機でも不可能なくらいにすばやく、学園校長の脳裏で閃くわけで。
それでも、許可したのは、まさに学園を巻き込んだ恐るべき”うねり”の結果だった。
それは、この今舞台にたっている、本校生徒、東丈が、稀代の超能力者であり、その隠された超能力を使って、この世界に反逆の牙を立てる”魔王”に他ならないという、恐るべきというか、異常な噂が学園を取り巻いているからだった。
正直、読者諸氏も、もし、学生で、学校でそのような・・一生徒がとんでもない超能力者で、その力を使って、世界をひっくり返すような悪事を画策しているなんて、一体誰が信じる?
もちろん、子供たち・・生徒なんてまだ毛が生えたばかりのヒヨッ子で、子供と同じようなもののだ、それが面白がってそんな根も葉もない話を噂でばら撒くのは、まだある話かもしれないとは考えらえる。
しかし、それがこの学園では、強固な事実として、みなの口に上っていたのだ。それは後に”都市伝説”という分野を生み出したと言って言い、”口裂け女”と同じ、何ともいえぬ恐怖心を煽るものだったのである。
だからこそ、校長は、それによるパニックを避けるという名目で、自分を納得させて、その講演会を許したのだ。
だから、それは東丈という渦中の少年の自己弁護、弁明のための場になるはずだった。
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