アオイヒカリ

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なんとか呼吸を整え 漸くまともな言葉を 発することが出来た。 「先輩はお仕事の帰りですか?」 当時は黒の詰め襟姿だった先輩も 今ではスーツをビシッと着こなしている。 身長が180オーバーの先輩。 現役の頃と何ら変わらぬ 引き締まったその体型に驚いて 失礼を承知でつい まじまじと見てしまう。 「ああ……仕事帰りーーだな。てかお前さ、そんなにまじまじと見るなよ。照れるだろーが。」 そう言いながら先輩は 私の頭をポンポンと叩いた。 うわぁっ… 高校を卒業してから もう何年も経つというのに あの頃の先輩への思いが一瞬で甦る。 先輩の姿を目で追い続けていた あの頃を。 ノスタルジックな思いに どっぷり浸っていた私を 現実に引き戻したのは 先輩の躊躇いを含んだその言葉だ。 「青野、少しでいいんだけどーーー時間いいか?」 「えっ、時間ですか?」 断る理由なんかなかった。 友人たちとの待ち合わせの時間まで まだまだ余裕があるし 何よりも、昔、 密かに思いを寄せていた人との 偶然の再会。 私は先輩の誘いを素直に受けた。 「ほら、好きなの押せよ。そこの公園で飲もうぜ。」 きっとめかしこんだ 私の姿を見た先輩は この後、予定があるのだろうと 敢えて時間を取らない公園を チョイスしてくれたのだろうか。 それともーーー いずれにしても 昔からそういう細やかな 気遣いが出来る人だったなと また一つ先輩の記憶を思い出す。 商店街を抜けて直ぐの 道路脇にあった自販機に スーツのポケットから 出した小銭を入れる先輩。 「あれ?おっかしいなぁ。」 「どうしたんですか?」 「いや、さっきから500円玉をさ、入れるんだけど何回いれても、出てきちゃうんだよなぁ。ったく。」 自販機ではよくあることだ。 「先輩、私、小銭ありますよ。時々こういう事ってありますよね。そういう時に限って他に小銭がなかったり。」 そう言いながらお財布から 500円玉を一つ取り出す。 「わりぃ、じゃ、これな。」 先輩は私が自販機に お金を入れたと同時に 手に持っていた500円玉を 私の財布の中にポンッと入れてくれた。 「そんなぁ、これくらい良いのに。缶ジュースくらいなら私でも奢れますよ?」 大袈裟なくらいに おどけながら言うと 「例え缶ジュース一本でも俺は後輩には奢られたくないの。ほら、どれにする?」 格好良く断られる。 男気のある頼れる先輩。 先輩は昔からこういう人だ。 自販機の点灯するボタンを一通り眺め 先輩はコーヒー 私はアップルジュースを押した。 ガタゴトと鈍い音を出しながら 受け取り口に出てきた缶を取り出すと 商店街を出てすぐ側にある公園へと 二人で向かった。
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