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「あっ、俺なんか消えてきたんじゃね?ほら、見ろよ。」
先輩の目線の先を追うと
確かに足元の方が透けて薄くなっていた。
「なんかさ、今、お前に告白してそれで少し気が済んだのかもな。漸く、俺も進めるわ。」
先輩は満足げに言った。
その顔にさっきまで張り付いていた
不安はどこにも見えない。
厳しい部活の練習後に
よく見た先輩の顔だ。
苦しいはずなのに
清々しいやりきった感溢れる笑顔。
懐かしいな。
そうしている間も
目の前の青い光に包まれた
先輩はどんどん消えてゆく。
もう膝から下は完全に消えていた。
「大沢先輩っ、」
途端にあの頃の先輩への思いが溢れてきて
つい、言葉にしそうになる。
逝かないでって。
「ほら、青野。またそんな顔する。ったく…俺をその気にさせたお前が悪いんだぞ。」
と前置きをすると先輩は
私をふわっと包み込んだ。
私、今、先輩に抱き締められてる?
実際には触れられていないはずなのに
妙に先輩の腕の感触や温もりが
やんわりと伝わってくる気がする。
その腕の中で
私よりも大きい先輩を見上げると
不意に先輩の顔が私に重なった。
えっ……キ、ス?
「んっ…」
それは一瞬の事だったけれど。
「ええっ、セセ、セン、パ、イ?」
私には大事件な訳で。
なのに先輩は
イタズラっぽい笑顔を浮かべると
「青野、俺さ、これでホントもういいや。なんの迷いも未練もない。それよりもこんなとこでグズグズしてねぇでさ、とっとと生まれ変わるわ。そしたらさ、今回やり残した分も次の人生で目一杯楽しむことにするわ。」
とても力強く言った。
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