57人が本棚に入れています
本棚に追加
1
キシが女の人と入ってきた。
その日は、業務部の先輩に誘われて、社員食堂に来ていた。水曜日は日替わり定食が鶏の唐揚げで、いつもより混雑する。
キシと一緒の女の人が、僕の隣にいる大橋さんに手を振った。大橋さんが、
「おー」
とコップを置いて、手を振り返した。
それで、キシが僕に気づいて、今まで見たことのない不思議な表情になった。僕もあんな顔をしているのだろうか。
「知ってたっけ、彼女。営業の佐倉さん」
と大橋さんが言う。
「お顔とお名前が一致していませんでした。電話で何度か」
「だよな、俺、同期なんだよ」
社内でキシと会う頻度は、それほど高くなかった。営業企画部は同じフロアだが、ロビーを挟んだ別のエリアにあり、そもそも彼は営業なので、あまり社内にいない。
社員食堂で出くわしたことは、これまで一度もなかった。
四人掛けのテーブルの向かい側にいた二人が席を立ち、いやな予感が当たって、さっきの佐倉さんが、
「ここ、いい?」
と大橋さんの前にやってきた。
「もちろん、どうぞ」
「ありがとう、今日、混んでますよね」
佐倉さんは僕に言いながら、テーブルにトレイを置き、椅子を引いた。
すぐにキシが現れて、トレイを僕の向かいに置き、
最初のコメントを投稿しよう!