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その日の夕方、別のフロアに書類を持って行った帰りに階段を上っていると、 「上野」 と後ろから声をかけられた。振り向くと、キシだった。 「あ、お疲れ様」 シャツの袖を折りたたんで、肘の上あたりまで上げている。珍しく外出ではなさそうだった。キシは階段を上がってきて、僕の背中に手を置いた。 「ちょっと、来てもらってもいいですか」 「何ですか?」 「5分だけ」 階段を上がったロビーで、キシは僕の背中を押したまま、営業企画部があるエリアの自動ドアの前で立ち止まり、首にブルーの紐でかけている入館証をタッチパネルに当てたが、中から出てきた人達がいて、ピッという音がする前に、ドアは開いた。 キシは僕の前に立って、中に入って行った。 僕がいつもいるエリアと違い、入ってすぐに打ち合わせスペースがあり、その横に会議室が並ぶ作りだった。 キシはいちばん近い会議室のドアの横に入館証を近づけ、今度はピッと音をさせて、僕を中に入れた。 「仕事の話ですか?」 キシは答えず、ドアを閉めた。サムターンを回して鍵を締める音が聞こえた。 「電気は、つけといた方がいいか」     
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