第1章

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 そっと声に出してみたけど、あたしの頭はぼんやりだ。ちょっとでも考えようとすると、こいミルクみたいなきりがしゅうしゅう立ちこめて、まわりはすっかりなまぬるく、まっ白になってしまう。  鴎さんは立ち上がって、車いすの手すりにおしりをひっかける。顔を上げて、おもしろそうに笑う。  「あはは、まあ、君の丈一さんは頭がい骨は分厚いけど、ハートはガラス製で、すっかりくだけちゃったんじゃないかな」  ああそうか、ひぐちって丈一さんの名字だ。  くだけちゃったなんて、かわいそうな丈一さん。あたしはそっとあたしのむねをおさえる。  鴎さんも目のへんをおさえるけど、きっとふざけてるだけだ。手をどけて、ゆっくり顔を上げて、  「あ、それから外の情報がもうひとつあった。君の恋人ね、」  今思いついたみたいにいう。  「死んじゃったよ」  
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