第1章

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 あたしは新入りだから、今のところ見学だ。それでもじゅうぶん楽しい。  みんなはゲームをしたり、ざっしのふろくをふくろにつめたり、ピアノに合わせて歌を歌ったりする。時間が終わると、みんなはみんなのへやに帰る。  あたしも何個かドアをとおり、あたしのへやに帰る。  とちゅうのろう下から中にわが見える。そんなに広くないけど、パンジーやゆきやなぎやチューリップがうわってて、明るい日もさして、すてきな中にわだ。いつも決まってあたしが見とれるから、油小路さんは立ちどまり、しばらく待っててくれる。  まん中の細い木にひょこひょこ白い花がついてるのに、今日はじめて気がつく。あたしが指をさすと、油小路さんは丸いかたをすくめ、  「あれでも桜やで」  っていう。それから、ゆっくり歩きだす。    ばんごはんがすむと、あたしはお手洗いときがえをすませて、クスリを飲む。それから、ねぶくろに入る。油小路さんがねぶくろのベルトをとめる。ベルトをとめるとき、  「きゅうくつやけど、かんにんしてな、えりすちゃん」  っていつもいう。だから、あたしはいつも、  「かめへん、かめへん」  って答える。  あたしのねぞうが悪いんで、ぶつけて何度かけがをしたから、ねぞうがなおるまでこのねぶくろに入りなさいって、熊谷先生がいった。こないだは、知らない間に油小路さんにぶつかって、油小路さんは目の上のところを切ってしまった。朝になって、あたしは、  「ごめんね」  って、油小路さんにあやまった。油小路さんは大きいばんそうこうをつけていたけど、じゃがいもみたいな顔をにこっとさせて、  「かめへん、かめへん」  っていった。  すごくやさしい人だ。油小路さんが当番のときが一番うれしい。あたしがねむれなかったり心ぱいになったりすると、なにもいわないうちに、すうっとへやに入ってきてクスリをくれる。せいは2メートルぐらいありそうで、がっちりしてて、とても力持ちだ。あたしがクスリでぼうっとしてくると、ひょいっとだき上げてひょいっとベッドにのせてくれる。  「僕なあ、大学でアメフトやっててん。えりすちゃんなんて、片手で五人持てるわ」  のんびりかわいいいい方でいう。  クスリがきくまでの間、あたしたちは少しおしゃべりする。あたしはまえの仕事のことを話す。油小路さんはだまって聞いている。話がおしまいになると、大きく息を吐いて、
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