第1章

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 油小路さんには特別に好きな男の人がいた。おんなじアメフト部の同級生で、いっしょの会社にいっしょに入るくらいなかよしだった。あんまりにもその人のことが好きで好きで、油小路さんは何年もの間すんごくなやんで苦しんで、とうとう「清水の舞台から伸身四回転半ひねりしたつもりで」、その人に告白した。  「そしたらなあ、次の日、ほんま昨日の今日で」  油小路さんは両手を組んで、口の前にあてる。  「会社の人の目が、がっらあー変わってて。まるでおできかバイ菌みたいな扱いや……そいつ、思いきりしゃべりよった、あることないこと、ないことないこと。よっぽど怖かったんやろな。かわいそなことしたわ」  ちょっと笑って、  「ほやけんど、僕はそのままおられんかった。こんな柄でもなあ、センシティヴ・アンド・デリケート、つまりはへたれやねん。ほんでこっち出てきてん。言うても、あっこは田舎やったし。こっちはええよ。人と違うこと考えててもほっといてくれるし」  っていう。  人はみんなちがうけど、少しずつおんなじところもあると思う。だからあたしは、  「油小路さんは、今カレシいる?」  って聞く。油小路さんはまたばんそうこうをかいて、  「いやいやいや」  って答える。あたしが、  「イップイップセイについてどう思う? ダキすべきものだと思う?」  って聞くと、びっくりした顔であたしを見る。その顔がおかしくて、あたしはくすくす笑いだす。  「ううん、そんなこという男の子が友だちにいるの。油小路さんと会ったらいいなって、思ったの」  油小路さんは顔から耳から首すじまでまっ赤になる。両手をばたばたふる。  「かんにんやで、えりすちゃん。僕みたいな不細工紹介したら、そのお友だちかわいそやし、僕また逃げなあかんようになるし」  やっぱり、だきしめたくなるくらいかわいい。あたしは何度か息を吸って、「そんなことない」っていう意味のことをいいたいんだけど、なにをいってもうそっぽく思えていえない。  かわりに、あたしもあたしのひみつを話そうかと思うけど、それもやめる。じまんになっちゃいそうだから。  うで時計を見ながら、油小路さんは立ち上がる。  「えりすちゃん、おしっこだいじょぶやね?」  あたしがうなずくと、ドアをひらいて、  「せや、明日お天気よかったら、中庭に出てみよか。お花見しよか」  っていう。あたしが、  「わあい」
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