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油小路さんには特別に好きな男の人がいた。おんなじアメフト部の同級生で、いっしょの会社にいっしょに入るくらいなかよしだった。あんまりにもその人のことが好きで好きで、油小路さんは何年もの間すんごくなやんで苦しんで、とうとう「清水の舞台から伸身四回転半ひねりしたつもりで」、その人に告白した。
「そしたらなあ、次の日、ほんま昨日の今日で」
油小路さんは両手を組んで、口の前にあてる。
「会社の人の目が、がっらあー変わってて。まるでおできかバイ菌みたいな扱いや……そいつ、思いきりしゃべりよった、あることないこと、ないことないこと。よっぽど怖かったんやろな。かわいそなことしたわ」
ちょっと笑って、
「ほやけんど、僕はそのままおられんかった。こんな柄でもなあ、センシティヴ・アンド・デリケート、つまりはへたれやねん。ほんでこっち出てきてん。言うても、あっこは田舎やったし。こっちはええよ。人と違うこと考えててもほっといてくれるし」
っていう。
人はみんなちがうけど、少しずつおんなじところもあると思う。だからあたしは、
「油小路さんは、今カレシいる?」
って聞く。油小路さんはまたばんそうこうをかいて、
「いやいやいや」
って答える。あたしが、
「イップイップセイについてどう思う? ダキすべきものだと思う?」
って聞くと、びっくりした顔であたしを見る。その顔がおかしくて、あたしはくすくす笑いだす。
「ううん、そんなこという男の子が友だちにいるの。油小路さんと会ったらいいなって、思ったの」
油小路さんは顔から耳から首すじまでまっ赤になる。両手をばたばたふる。
「かんにんやで、えりすちゃん。僕みたいな不細工紹介したら、そのお友だちかわいそやし、僕また逃げなあかんようになるし」
やっぱり、だきしめたくなるくらいかわいい。あたしは何度か息を吸って、「そんなことない」っていう意味のことをいいたいんだけど、なにをいってもうそっぽく思えていえない。
かわりに、あたしもあたしのひみつを話そうかと思うけど、それもやめる。じまんになっちゃいそうだから。
うで時計を見ながら、油小路さんは立ち上がる。
「えりすちゃん、おしっこだいじょぶやね?」
あたしがうなずくと、ドアをひらいて、
「せや、明日お天気よかったら、中庭に出てみよか。お花見しよか」
っていう。あたしが、
「わあい」
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