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っていうと、にこっとする。
「ほな、おやすみ」
「おやすみなさい」
ぱたんとドアがしまって、かぎのかかる音がする。
朝ごはんのあと、あたしたちは中にわに出る。先に下りた油小路さんが、
「あ」
っていって立ちどまる。
桜の木のそばに人が立っている。しゅっとしたスーツとめがねの、まじめなサラリーマンふうの男の人だ。
油小路さんはしずかな声で、
「えりすちゃん、ここにいてて」
っていって、戸口のところにあたしをおいて、ひとりで男の人のところへ歩いていく。
「ここは関係者以外、立ち入り禁止ですよ」
男の人はむねからぶら下げたカードを見せるけど、油小路さんは首を横にふる。
「入館証があっても、ここはあきません。事務室へご案内しますし」
男の人はちょっと笑って、油小路さんのかたの向こうからまっすぐあたしを見る。
「おい」
大きい声を出して油小路さんがつかまえようとするけど、ひょいっと体をひねってよけて、もうあたしの目の前にいる。
いきなり土にひざをついて、あたしの足の甲にくちびるをあてる。頭を上げて、
「来たよ」
って、いたずらっ子みたいに口のはしを曲げる。
あんまりびっくりしたせいで、あたしも油小路さんもとまってしまう。けど、さすがに油小路さんはすぐ気がついて、
「おいっ」
大きい声と手でその人のかたをつかむ。その人はあたしの足を両手でかかえてしがみつく。
あたしは油小路さんの白いそでをつかんで、
「らんぼうしないで、おねがい」
ってたのむ。ぎゅうぎゅうひっぱりながら油小路さんが、
「知り合い?」
って聞くので、あたしはこくこくうなずく。
「……友だち、あたしの友だちなの」
油小路さんが手をはなすと、あたしの友だちもしがみつく手をはなす。そっと頭を横向きにして、あたしのひざにのせる。
「どうやったら、こんなかっこいいマシンが手に入れられるの、ソーニャ」
手をのばしてあたしの足と車いすをなでる。砂色のかみを指でとかしてあげて、あたしはなんでか泣きそうだ。
油小路さんが口をひらきかけるけど、あたしが先にいう。
「ちょっとふらふらするだけなの。ころんだりしないためにのってるの。心配しないで、鴎さん」
「へえ」
鴎さんは立ち上がる。
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