第1章

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 「ごめんね、油小路さん。あの人少し頭がおかしいの……」  鴎さんのせ中がかるくこける。   「……でも、大事な大事な友だちなの。ふたりでお話しさせてくれる?」  心配そうな顔の油小路さんはあたしを見て、  「そんな頭おかしいのん、えりすちゃんと二人にしとけんし」  っていう。  あたしは笑って、  「だいじょうぶ。この人は小鳥のひなより弱いから」  っていう。もう一度、鴎さんのせ中がこける。  油小路さんはもう一度目をゆらし、それから急に上のほうを見て、  「せや、僕、今週号のジャンプまだ買うてない。売店行ってこよ」  っていう。  鴎さんはくるっとふりむいて、  「あ、ならあとで僕にも読ませて」  っていう。油小路さんは、鴎さんを上から下までじろじろ見て、  「どんな手使うて入ったか知らんけど、僕がおらんかったら、自分、ここから無事に出られへんし」  っていう。鴎さんはまたワルモノの顔で笑う。  「へえ、ならあんた、僕を無事に出してくれるんだ。そりゃありがたいお申し出だ、ウドの大木くん。お礼に何して欲しい? たいがいのことはしたげるよ」  っていって、口のまわりをなめる。油小路さんは顔をそむける。  「すぐ戻るし」  急いでドアをあけて、たてものの中に入る。  「おおきに」  って、鴎さんはお礼をいう。かちゃんとかぎのまわる音がする。    鴎さんはほう、と息をついて、  「やれやれ、やっと二人きりだね」  って、あたしに向く。  「で、調子はどうなの、ソーニャ」  また土にひざをついて、両手と頭をあたしのひざにおく。  「ああ、そうだよ、君の言うとおり、僕は頭がおかしくて弱いさ。だから、こんなマネができる。君に会いに来るような恥知らずなマネがね。そのうえ、僕はちっとも謝らないつもりだ。君に許しを乞うようなマネだけはすまい、って心に決めてんだ」  あたしは片手で鴎さんの手をぎゅっとにぎり、もう片っぽで砂色のかみをなでる。  「鴎さん、あたしのことおこってるんだね」  頭を上げて、鴎さんはにっと歯を見せる。
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