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風がひんやりと冷たくなって、上に羽織るものが欲しくなる、夏の終わり。
ニュースの天気予報では、近づいてくる台風が徐々に勢力を増して、週末は荒れ模様になると告げていた。
古びたこの洋館で、果たして耐えられるだろうか。
強い風が吹いただけで、窓がガタガタと音を立てて揺れる、年代物のこの家では心もとない気もする。
今度、耐震強度を補強して、ついでにもうちょっとリフォームでもしようかな。彼に相談しなくちゃ、と頭の中のリストに1行メモを足しておく。
夕暮れが段々早くなってきた。家を取り囲むように生い茂る木々が、風に吹かれる度にざわざわと、オレンジ色に染まる辺りを濃緑の刷毛で刷いていく。
台風を運んでくる風は、胸の中に、妙にざわめきを掻き立てる。恐ろしいことなど何もないのに、この静けさを打ち破る葉擦れの音が肌を粟立たせるのは、これから起こる非日常への好奇心か、恐怖心か。
ざあああっと一陣の風に攫われて、思わず目を閉じる。
次に目を開けた時にはもう、夜の帳が下りていた。
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