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「そうか。そうか」
「謝ること無いわ」
母の真羽は手招きをし、娘の手を握った。
「美羽。こちらは私の父親。あなたのお祖父さんよ」
「お祖父さんって……北海道の?」
「そうだ。お前の爺さまだ」
そういって老人は満面の笑みを浮かべた。言われてみれば、目元が母に似ているような気がすると私は思った。
「……お父さん。悪いけど、明日出直しくれる?美羽には私から話しておくから」
「おう。すまんな。こんな時に」
じゃ。とお祖父さんは手を振って部屋を出て行った。私は黙って背中を見送った。
「北海道から、お見舞いに来たの?」
「……事故に遭う前に。ちょっと連絡してあったんだ」
苦しそうな母は必死で話を続けた。
「……美羽、明日土曜日でしょう?翼と一緒にきてほしいの。大事な話しがあるの。今日はごめんね、疲れたから話しは明日にしたいの」
「わかったよ。無理しないでね」
母は安心したように目をつぶった。肋骨も折っているので、話をすると痛むと思った私は、そっと病室を後にした。これから始まる出来事も知る由もなく。
翌日、私は弟の翼をつれて病院へやってきた。翼は小学三年生。父親が異なるけれど、年の離れた可愛い生意気な弟だ。もうすこし聞き訳が良いといいともっと可愛いと私は思っている
「お姉ちゃん。ママはいつ退院するの?」
「そうね。たぶん新学期くらいからよ」
「ふうん」
母が不在で寂しい思いするかと思いきや、弟は『鬼の居ぬ間に洗たく』状態で、好き放題にしていた。日頃の母を口うるさく感じていたようで、まだ心細さは感じられない。今日だって病院の食堂のラーメンを食べるのが楽しみと張り切ってやってきた。しかし病室に入ると、ちょうど点滴を交換したところの母に駆け寄って行った。
「ママ!」
今まで、ラーメンの話をしていたくせに急に甘えん坊の翼に戻っている弟。私が呆れている横で、彼は最近の出来事を一通り話そうとベッドに身を乗り出した。
「お話ありがとう翼。実はね、今日は翼のおじいちゃんが来ているの。一緒に遊んでくれるわよ」
「マジで?おじいちゃんて、北海道の?」
「美羽。談話室にいるはずだから呼んできて」
談話室に行くとお祖父さんは昨日と同じ姿で椅子で新聞を読んでいた。ちょっと気恥ずかしかったけど、私は声をかけた。
「お祖父さん。おはよう」
「お。来たか……これ、お前のか、これ」
「傘?ありがとう……どこで、これを?」
すると彼はフフと笑っただけで何も教えてくれなかった。
そして病室で対面した翼は興奮してしまった。彼も祖父に逢うのは初めてなので仕方がないが、そんな弟を観た母は、好きなものを買ってもらいなさいと促さし、翼を祖父を退室させた。
「……お母さん。話をして大丈夫?」
「うん。点滴に痛み止め入れてもらったから。少しなら……大丈夫」
包帯が痛々しい母の話がはじまった。
「私はね。北海道から家出して来たことは美羽に話してあったわね。だから実家とは一切連絡取ってなかったの。でもこの前、一応、居場所を知らせたの。それで今回、父が訪ねて来たんだけど……」
態勢が苦しいのか、体をずらして母は話を続けた。
「実家はね。帯広の近くにあるの。分かる?帯広って。そこで旅館をやっているの。小さいけどね、一応温泉付きだよ。経営は、あの父親の勇と翔子姉さんと昇太郎兄貴がやっているわけ。それと」
「それと?」
私は持ってきたポットのお茶を二人分、カップに注いだ。
「……実家には古い神社があってね。そこを守るのが鳥井家代々の習わしなの。今回はその相談なのよ」
私は熱いお茶を一口飲んだ。母は冷めるのを待っているのか、湯気を見つめている。
「その神社がね、雷に打たれて火事で焼失したらしいの。だから新しく建てたらしいのだけど、その神儀に私も同席しろ、という事なのよ」
「なんでお母さんが関係あるの」
「……昔から神社を新設する時は、一族で集まる決まりなんですって」
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