青春

5/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
それから何日かすると父はお金を作ってきたからもう病院も見つけて話もつけてきたと言った。時子のお腹は見た目にはあまり目立たなかったので母や姉や友達も付き合っていた男性さえも気付かなかったのであった。それから程なくして付き合っていた男性は仕事の都合で転勤になり会えなくなった。そんなに好きでもなかったが少し寂しかった。しかしこんな状態でもあったためその男性とは別れた。それよりも妊娠の事で頭がいっぱいで他の事は何も考えられなかった。そんな時父は入院の手続きをしてきたので「まずは母と姉には時子が家出している事にして絶対に母や姉には言うなよ!」と言い、そのまま入院する事になった。そして父の探してきた産婦人科の医師の話を聞いた。何ともう妊娠五ヶ月くらいを過ぎていたため、無理やりに陣痛を起こして死産して中絶することになるという話であった。時子は何が何やらよくはわからなかったがこのお腹の子は憎い父の子だが、しかしひとつの命を殺すことは理解できた。入院中は毎日お腹の子に「ごめんなさい!ごめんね!でも産むわけにはいかないの!恨むでしょう?でもね!私の意思じゃないのよ!恨むならばあの憎い父を恨んでね!本当にごめんね!」と毎日同じ事をずっとお腹の子に話しかけていた。するとある日突然に水のようなものが流れた。医師によるとそれは破水したので、「まもなく陣痛がきます。」と言われた。(えっ?産むの?!どうしたらいいの?!)とパニックになった。それから何時間経っただろうかと思っていたら、突然の激しい痛みに襲われた!何かが出てくる感覚があり、ズルッとした感じで少しまだピクッと動いていたが、それはすぐに動かなくなった。赤ちゃんだった。もうすでに死んでいる感じがした。時子は父との子をそうして中絶したのであった。何だかわからないが、悲しくなって涙が出てきた。失意のどん底の中、時子は退院した。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!