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エモーティコン
玲とミケットは展示ホールにいた。玲は新刊を完成させることができた。機械となった身体に玲は感謝した。
自分自身でコンピュータをエミュレートしてプログラムを動作させ、考えるだけで原稿が完成した。
印刷所の最終締め切りには間に合わなかったが、アトラスに収納されていた機材の汎用アセンブラで製本できた。
サークルスペースの設営を終えると玲はスマートフォンで写真を撮ってSNSに投稿した。マシーニャの指は静電容量方式タッチパネルに相性が悪いから、タッチペンの使用が必須だった。
ホログラムを駆使して玲はもちろん、ミケットも普通の人間にしか見えないようになっている。
「それじゃあ僕は挨拶しに行くから、売り子をよろしく」
「……いきなり妾を一人にするのか」
「すぐ戻ってくるよ」
「本当だな? 地球人は信頼できない」
気丈そうにミケットは振る舞うが、ちょっとした恐怖が玲に伝わってきた。文字通りに顔が硬いマシーニャは表情に乏しいが、代わりに近くのマシーニャ同士で感情を送受信している。
そのままの感情が伝わるから、表情や言葉よりも強力だった。玲は感情送信を閉鎖していたが、ミケットは玲が監視をするために全解放を強制されていた。
ミケットは感情送信を閉じている玲を度々咎めた。マシーニャの女王でも感情を閉じるのは滅多にないという。玲は機械のマシーニャが感情を重んじていることに驚いた。
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