エモーティコン

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 知り合いのサークルに挨拶に行って新刊交換もして玲は自分のスペースに戻った。ミケットは言われたとおりに売り子としての働きをこなしていた。  マシーニャの通貨は全て電子化されていて物理的な形は持たない。だからミケットは突き出された紙幣を見て最初は慌てていた。 「ちゃんとできてる」 「ふん、バカにするな」  しかし今やミケットは落ち着き払っていた。興味がありそうな人に声を掛けて見本誌を渡したり、一国のスパコンを凌駕する演算能力を駆使して整数4桁の足し算と引き算を処理していた。 「ミケットも本を見てくる?」 「むう……そうだな。地球人の技術がどの程度か興味がある」  玲はミケットに本を2冊買えるだけのお小遣いを渡して送り出した。程なくしてミケットは1冊の本を持って戻ってきた。 「Common Lispの本? なるほど……」  関数型の独特なプログラミング言語に関する本だった。玲はミケットがそれを買った理由が分かった。LISPにはマシーニャの言語との類似点がある。  マシーニャの言語は26の主要文字と21の補助記号で構成されている。それらを前置記法で組み上げて意思疎通はもちろん、マシーニャの精神を構成する部分もその言語で書かれている。 「妙な偶然もあるものだな」  不思議そうにミケットは言った。玲はもしも偶然じゃなかったらと勘ぐったが、そうしたらタイムパラドックスが生じるから有り得ないと却下した。
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