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そして全身を引き千切られた。腹を食い破って腔内にケーブルが侵入して内臓を掻き回す。腹に潜り込んだケーブルが食道を逆流して口から飛び出た。痛みと、滴る生温かさだけが彼の感じられる全てだった。
体中の穴という穴なケーブルは侵入して構造を破壊した。耳から侵入したケーブルは脳に到達したようで、その瞬間にあらゆる痛みや苦しみが消えた。
目の前が明るくなって、真っ白な光に包まれた。身体の感覚はあっても、それは光の中に溶けて境界を失っている。
彼は大きな声の歌を聞いた。それは教会で歌われるような、賛美歌の大合唱のようだった。歌われている言語は初めて耳にするはずなのに彼は理解できた。
言葉に再現することはできないが、心に平穏をもたらした。そして次に感じたのはマシーニャを疑ったことへの謝罪だった。それは許された。
今や不安は恐怖は霧散していた。これから起きる全てを彼は堂々と受け入れることができた。それどころか、望んですらいた。
意識まで委ねて、彼は急に固い面に叩きつけられた。カメラを起動させると、部屋のフローリングが目に入った。
手が見えた。血の通った柔らかな手ではなく、白くてマットな質感の固い手の平が見えた。恐る恐る顔も触ると、固い感触が伝わる。
さっきとは一転して彼は喪失感に襲われた。しかしその原因は分からなかった。何かを忘れた感触はあっても、その正体は分からなかった。
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