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「ああ、それと、淀橋先生」
その場を去ろうとした由巧は、小野寺に再び呼び止められた。
「はい」
「……矢馬田の面倒を任せてしまって悪いな。あいつの相手は大変だろう。困ったことがあったら、なんでも言ってくれ」
生徒に対してだけではない。
小野寺は、由巧の心配もしてくれている。
ただの怖い体育教師だと思っていたけれど……本当はいい人なんだ。
他人思いで、面倒見がよくて、正義感の強い、熱い漢。
力もあって、頼りになって、みんなから慕われる。
いい教師だと、感じた由巧は「ありがとうございます!」と声を張って職員室を後にした。
まどかにチャンスが与えられた木曜日、昼間は珍しくきちんと授業を聞いていて、数学の授業では「これ、よくわかんない」と声をかけてきた。
質問する、というのはかなりの成長だと思う。
理解しようとするその姿勢に、由巧はすごく嬉しくなって、まどかに丁寧に解き方を助言する。
翌日金曜日もまた、まどかはイイ子に過ごしていた。
「明日は、センセーの家で勉強教えて?」と、前向きな様子に、由巧は「もちろん」と微笑む。
しかし、まどかの成長がうれしい反面、由巧は少しだけ心の中に靄がかかったような気持ちに襲われた。
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