J:かていきょうし

6/19
前へ
/180ページ
次へ
「ああ、それと、淀橋先生」  その場を去ろうとした由巧は、小野寺に再び呼び止められた。 「はい」 「……矢馬田の面倒を任せてしまって悪いな。あいつの相手は大変だろう。困ったことがあったら、なんでも言ってくれ」  生徒に対してだけではない。  小野寺は、由巧の心配もしてくれている。  ただの怖い体育教師だと思っていたけれど……本当はいい人なんだ。  他人思いで、面倒見がよくて、正義感の強い、熱い漢。  力もあって、頼りになって、みんなから慕われる。 いい教師だと、感じた由巧は「ありがとうございます!」と声を張って職員室を後にした。  まどかにチャンスが与えられた木曜日、昼間は珍しくきちんと授業を聞いていて、数学の授業では「これ、よくわかんない」と声をかけてきた。  質問する、というのはかなりの成長だと思う。  理解しようとするその姿勢に、由巧はすごく嬉しくなって、まどかに丁寧に解き方を助言する。  翌日金曜日もまた、まどかはイイ子に過ごしていた。 「明日は、センセーの家で勉強教えて?」と、前向きな様子に、由巧は「もちろん」と微笑む。  しかし、まどかの成長がうれしい反面、由巧は少しだけ心の中に(もや)がかかったような気持ちに襲われた。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

644人が本棚に入れています
本棚に追加