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「え、野嶋くんにキスされた?」
自宅にまどかを招き入れた由巧は、飲み物を用意して自室に向かった。
部屋の中心にあるローテーブルに勉強道具を出して、床に足を崩して座っているまどかは、ちょっと元気がなく見えた。
「どうかした?」と、声をかけると、ここ2日間の出来事をぽつりぽつりと話し始めたのだった。
あの日の朝……
背を向けるまどかの、その手首をつかんで引かれ、振り返ったところに聡史の唇がが重なっていた。
3秒くらい、そのまま固まって……
慌てて肩をドンッと押し、その口を離すと、聡史が大きく息を吸った。
そして……
「まどか! 好きです! オレと仲直りしてください!!」
廊下の奥の方まで響き渡る大きな声で、そう叫ばれたそうだ。
「……もう、どうしたらいいか分かんなくて……木曜日と金曜日、完全無視で全力で避けちゃった。由巧先生が余計な事言うからだよ!!」
「お、オレ、なんか言ったけ?」
「覚えてないの? ほら図書室で『仲直りにはキスすればいい』みたいな事、言ってたでしょ」
「……言ったかも」
ほんの冗談で言ったはずのその言葉を、まさか信じて実行されているとは。
どおりで放課後、そさくさと帰ってしまったわけだ。
まどかに放課後呼び出されなかったのは、つまり、自業自得ということになるのだろうか。
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