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宣言通り、由巧はまどかに居眠りの隙を与えなかった。
授業が始まるギリギリまでちょっかいを出してきた。
他愛ない話をしたり、授業の進み具合を聞いたりして、まどかがどれくらい授業内容を把握しているのか、確認する。
「絶対無理だよぉ、午後の授業は寝るためにあるんだよ~」
「はは、大丈夫、大丈夫。絶対寝かせないから」
キラっとした笑顔で、頬杖をついているまどかの手を取り、その甲を撫でるように親指を滑らす。そして「ここね、」と言いながらまどかの親指と人差し指の間……合谷と呼ばれるツボを、ぎゅうううっと押し上げる。瞬間、まどかの悲鳴と共にその手は振り払われた。
「いったぁぁい! ばか! なにすんの!!」
「あはは、ごめんごめん。そこね、内臓系のツボなんだけど」
由巧はまどかの手を再び取り、甲を優しく撫でた。
ツンとした痛みはすぐに和らいで、だけど急に与えられた痛みに怪訝な顔を浮かべ、由巧を見上げると……その顔はとても満足そうににこやかに笑んでいた。
「眠気に効くツボも、あるんだよ。どこだと思う?」
まどかは口をへの字にして、ぷいっと顔を逸らした。
痛いことをされるのは、苦手だった。
他人が痛がっている姿を見るのは大好きなのに。
前に、由詩が「痛いのが気持ちいい」のだと言ったが、まどかには理解できなかった。
痛みは、どう足掻いても痛みでしかない。
だけど、その痛みを由詩は喜んで受け入れてくれていて、需要と供給の一致、のようなものがそこで確立していたからよかったものの……
「教えてあげようか」
今、ここに痛みの需要はない。
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