月を見上げる

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夏に雨が降るのは珍しくない。 いつもならカンカンに照らす太陽が、今日はじめじめとした雨に変わって朝を知らせに来た。 今日は彼女にとって4回目となる個展を開く予定だ。 場所は夏休みに入っている高校の美術室だ。 彼女自身で並べた作品を一つ一つ見つめる。夏をテーマにした作品は盛大で力強い風景画が多い。パースペクティブを特に意識した森林と太陽のテーマは、森林を太陽よりも高く見せることで木々の生命力を際立たせた彼女の自信作だ。 生憎の雨にも関わらず、いざ個展が開かれると例年通りの来場者を迎えられた。 彼女の親戚や生徒たちと親しげに話し、そして同じく絵を描いている仲間には作品の品評をしてもらった。 来場者の満足げな顔と次回も見に来るというあいさつをもらい、彼女は達成感を覚えていた。だが、これが終わればまたいつもの日常に戻るという虚無感も感じていた。 時間が経ち、雨も静まって来場者もまばらになってきたのを見計らい、片付けの準備に取り掛かろうとしていた。 その時、彼女の横にスーツを着た男が近寄ってきた。 男は外人で、背丈は低いが身なりはきちんとしていたのでとても紳士的な人に見えた。 男は、すみません、と彼女に話しかけ、英語の社名が入った名刺を渡した。 彼女は首をかしげながらもその名刺を受け取り、聞き取れない英語の中にスカウトという響きがあったのに気づいた。 男は、つまり、海外にある小さな個展に彼女の作品を一緒に並べるために彼女を招待していたのだ。 それは、地元でしか認められなかった彼女が世に出る千載一遇のチャンスだった。 彼女の返事はもちろんイエスであり、その日の夜に近くのレストランで通訳者と3人で今後の日程調整をすることとなった。 彼女は急いで個展を片付け、雨の日でも良いことが起きるものだと夜の近づいた空に向かって呟いた。
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