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「旦那様。包帯は変えたばかりですが、傷口はほぼ塞がっていました。あとは経過をレクター先生に診ていただくところです」
「そうか」
「それにしても、いらっしゃるのであれば私などに申してくださいな? いくらお連れになられた方でも」
「たまたまだ。目覚めてなければ、すぐ戻るつもりだった」
「あらあら、本当でしょうか?」
メイミーさんの意味深な発言に、旦那様はふいっと顔を背ける。
これは、前世でたまに耳にした、俗に言うツンデレと言うのだろうか?
旦那様の目元もだが、耳もだんだんと赤くなっているから。実物を目の前にすると、確かに少し可愛いと思う。恩人に対して不謹慎でも。
だけど、忘れてはいけないことを思い出した。
「あ、あの…………ありがとう、ございました。助けていただいて」
さっきのアドバイスについても色々聞きたいが、まず何よりこの言葉を伝えよう。
あのまま誰にも見つからずに気を失っていれば、メイミーさんが教えてくれたように風邪をこじらせて肺炎になり、最悪命を落としてただろうから。
傷が痛まない速度で首を折ると、今度は大きな手が頭を軽く叩いてくれた。
「礼など良い。俺は、ただ怪我人を見過ごせないだけだ」
「お世話好きなのも、でしょう? それにお連れになった時の御顔はいつもと」
「……メイミー」
「はいはい。年長者としての発言はこの程度に。ところで、旦那様? 手ぶらの割には、扉からいい匂いがしますわよ?」
「いい、匂い?」
メイミーさんが言うまで気づかなかったが、かすかに香辛料のような匂いがしてきた。
それも、三日以上も何も食べてないお腹に叩きつけるほどの美味しい食事の匂い達。
「……三日も起きずにいたんだ。いい加減、体が参るだろうと思ってな」
「お運びしますね?」
メイミーさんはなんて事のないように返事をしたが、屋敷の主人自ら客?に料理を持ってくるのだろうか?
恐れ多いと同時に、この旦那様の性格がいまいち把握しにくいと思っていたが、体は空腹に忠実だった。
メイミーさんが押してきたワゴンの上には、美味しそうなクリームスープとパン。
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