0.まず抜けさせられた

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 ドカッ  ベシャッ  もう死ぬかと思ったら、下は案外すぐ近くで。  でも、ぶつかったに変わりはないので体には衝撃が伝わった。  特に、頭は受け身を取らなかったので地味に痛い。 「いったたた……」  生きてはいたが、頭痛が治らない。  それどころか、なんだか痛みが酷くなっていく一方。  打ち所が悪かったか、傷が出来たのか。とりあえず痛む箇所を触ったが、さらに痛くなっただけだ。 「い゛っだたたただ!?」  触るんじゃなかったと思っても遅すぎる。  あまりの痛さにこっちが原因で死ぬかと思うくらいだったが、痛みに耐えているうちに頭の中に変な光景が浮かんできた。  パーティーと過ごしてた時期とか、まだ冒険者になる前の生活ではなく、もっと、まったく別の風景。 『千里(ちさと)ちゃん、次この成形しよっか?』 『(あまね)さーん、一緒に分割しよ!』 『いただきものの野菜でコロッケ作ったの、まかないに出すね?』  そんな会話に、見た事もない銀や鉄などの壁や道具に囲まれた、温かな空間。 (……違う、知ってる(・・・・))  見知らぬどころか、今の私よりずっと前に過ごした世界。  そして、その仕事場。  私は、『(あまね) 千里(ちさと)』と言うパン屋の職員である事を、典型的な事故で思い出せたのだった。 「…………そ、か。だから、料理、出来たんだ」  最悪な状況に、最悪の展開と思ってた矢先。  異世界転生を果たしてたと理解出来た途端、私は久しぶりに嬉し涙を流せた。
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