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ドカッ
ベシャッ
もう死ぬかと思ったら、下は案外すぐ近くで。
でも、ぶつかったに変わりはないので体には衝撃が伝わった。
特に、頭は受け身を取らなかったので地味に痛い。
「いったたた……」
生きてはいたが、頭痛が治らない。
それどころか、なんだか痛みが酷くなっていく一方。
打ち所が悪かったか、傷が出来たのか。とりあえず痛む箇所を触ったが、さらに痛くなっただけだ。
「い゛っだたたただ!?」
触るんじゃなかったと思っても遅すぎる。
あまりの痛さにこっちが原因で死ぬかと思うくらいだったが、痛みに耐えているうちに頭の中に変な光景が浮かんできた。
パーティーと過ごしてた時期とか、まだ冒険者になる前の生活ではなく、もっと、まったく別の風景。
『千里ちゃん、次この成形しよっか?』
『周さーん、一緒に分割しよ!』
『いただきものの野菜でコロッケ作ったの、まかないに出すね?』
そんな会話に、見た事もない銀や鉄などの壁や道具に囲まれた、温かな空間。
(……違う、知ってる)
見知らぬどころか、今の私よりずっと前に過ごした世界。
そして、その仕事場。
私は、『周 千里』と言うパン屋の職員である事を、典型的な事故で思い出せたのだった。
「…………そ、か。だから、料理、出来たんだ」
最悪な状況に、最悪の展開と思ってた矢先。
異世界転生を果たしてたと理解出来た途端、私は久しぶりに嬉し涙を流せた。
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