初めてだった。

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 弧を描いて飛ぶボールを今でも思い出す。  試合終了3秒前にシュートを決められて、ボールの感触が手に残るなか、7対8で俺達は負けた。  ――あのボールに触っていたら。  ――あと1本シュートを入れていたら。  体育館の天井を見上げながら、何度も悔やむしかなかった。  クラスメートは労いの言葉をかけた。誰も3Pシュートのことなど、俺自身もシュートを打ったことすら忘れていた。  なのに、傷を抉るように思い出された過去。  出来れば封印して、二度と思い出すことがないようにしたかった。  ――なのに、  外靴に履き替えた俺は靴紐を軽く結び直してから、沈黙を突き破るように明るく喋った。  「3Pシュートの話したの、お前が初めてだわ。俺の名前も呼んでくれてたでしょ?」  「え、私が呼んだの気づいた?」  「気づいた気づいた」  「うん、そっか…………ごめん。もしかしたら気分損ねるかもしれないんだけど」  「何?」  ――なのに、  「あの試合、君がかっこよかったこと以外覚えてない」  ――なのに。  ――どうして君から発せられる「かっこいい」の言葉は、こんなにも胸に響き嬉しくなるのか。  誰かの「かっこいい」より君の「かっこいい」が一番心に染み渡るのは何故だろうか。  初めてだった。誰かから「かっこいい」と言われて胸が高鳴るのは。  初めてだった。誰かから自分の名前を呼ばれて、あんなに自分の名前は美しい響きをしていたのか、と思うのは。  その説得力のある澄んだ瞳に、嘘など見受けられるはずがなかった。  「しかし、よく人に向かって褒め言葉がぽんぽん出てくるよな。羨ましい限りだわ」  「別に全員に対して言ってるわけじゃないよ? 好きな人にしか言わないもの」  「ふーん………………え?」  今、「好きな人」って―――。  心臓がバクバクと音を立てて制御が出来ない状態。試合の時よりも頬は火照って身体中熱くなっている。半開きの唇は閉じないまま、いつまでも開いていた。  「よそ見してると置いてっちゃうよ?」  悪戯っぽく微笑む彼女は、可憐で綺麗だった。  やっぱり勝ち負け関係なく、伝えたい――。  彼女の手を掴み、俺は深呼吸をする。そして、  「試合では負けたけど、俺本当はお前のこと――」  今から君に、初めての告白をするよ。
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