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神央学園には楓たちが通う普通科とは別に、体育科なるものが存在した。体育科の生徒は、名前の通り運動神経の優れている生徒が集まっていた。また、そのほとんどが野球部員だった。
「そうだよね、なんか野球部の人たちって別世界って感じだもん。だって、ほら」
涼子が教室の一角を指さす。
教室の隅では同級生が野球部の噂をしている。同じ二年生にイケメンのバッテリーがいるらしい。
一人はアイドルのような甘いマスクで性格も優しい次期キャプテン、キャッチャーの佐竹透哉。
もう一人は端正な顔立ちをした硬派でクールなピッチャー前園啓。
しかし、今の楓には全く興味のない話だった。
「楓も早く彼氏を作りなよ。絶対毎日が楽しいって。楓は可愛いし、せっかくの高校生活がもったいないよ」
うわさ話をしている同級生をぼんやりと見ていた楓の頬を涼子がつつく。
涼子が言うように、楓に彼氏はいない。片思いの相手もいない。
涼子の口から出るのろけ話を聞いていると、彼氏がいるのも悪くないのかなとは思う。でも無理して彼氏なんて作らなくても、自分の高校生活はそこそこ楽しいと楓はいつも思っていたのだった。
「彼氏ねぇ。私の心を揺さぶるような人が現れたら、その時考えるよ」
窓の外に視線を移して楓は答えた。
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