彼と彼女の出会い①

5/7
76人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
 数日後、楓は全速力で学校横の歩道を走っていた。  部活の事で先生に呼ばれていたのに、涼子と外で時間を潰していたらすっかり遅くなってしまったのだ。 「きゃあ」 「うわっ」  角を曲がったところで楓は誰かにぶつかり、転倒した。    ものすごい勢いで衝突したため、相手が持っていたスポーツバッグが落ち、ガシャンと派手な音がした。転んだ体制のまま楓が顔を上げると、同じ高校の制服が視界に入った。ぶつかった相手は男子のようだ。彼は転んではいない。落としたバッグに手を伸ばしている。    とにかく謝らないと、そう思った楓は慌てて立ち上がった。 「ス、スミマセン。ごめんなさい。荷物、大丈夫ですか?」 「ああ、多分」  相手は短く答え、スポーツバッグを拾い上げた。バッグのジッパーを開けて溜息をついている。   あれだけ派手な音がしたのだ。大切な物が割れたと思った楓は、慌てて自分の鞄からメモを取り出し、電話番号と自分の名前を書いて男子生徒に差し出した。 「本当にごめんなさい。壊れたもの、弁償します。でも今は時間ないので、後日、絶対に謝罪に行きますから。それで貴方の名前は……」  彼は楓の顔をじっと見た後、渡されたメモ用紙を見つめて微笑んだ。 「僕の名前は佐竹透哉。じゃ、また後で電話させてもらうよ、飛鳥楓さん」  それだけ言うと、彼は満面の笑顔で去っていってしまった。あれだけ派手にぶつかったのだ。文句の一つでも言われると思っていた楓は呆気にとられる。 「佐竹透哉って名前、どこかで聞いたなぁ。さたけ……とうや……。ええと、あ! クラスのみんなが言っていた人だ!」  確か野球部に佐竹透哉ってイケメンがいるって同級生が騒いでいた。 (よりにもよって、とんでもない人にぶつかっちゃった。野球部の人かぁ。割れた物の中身を聞いておいた方が良かったかも。お小遣いで弁償できるかな。でも、あの人、どこかで見たことあるような。まぁ、野球部だから全校集会の時にあった壮行会で見たのかも)  そんな事を考えながら、楓はまた走り出した。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!