彼と彼女の出会い①

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   甲子園が終わり、部活もオフモードになっていたこの数日間。  僕は何度か行った図書室で見た、彼女が気になって仕方なかった。  窓際の席でさらりとページをめくりながら、レポートを書いているあの綺麗な横顔が印象的で、気がつけば彼女に釘付けになていた。制服のワッペンから僕と同じ二年生だと分かるけれど、名前は何と言うのだろう。名札を確認することも考えたが、僕は校内では有名人だ。ストーカーみたいな真似、できやしない。  これからは部活が忙しくなるので、当分ここにも来られないだろう。  そう思った僕は、時間が許す限り図書館に足を向けた。周囲に怪しまれに範囲で出来るだけ彼女の近くに座り、本を読みながら彼女の様子を伺う。彼女は僕の視線に全く気がつかない。  彼女を初めて見た瞬間、僕の中に電流が走った。言わば一目惚れのような事がまさか自分の身に起きようとは僕自身、夢にも思わなかった。 僕の名前は佐竹(さたけ)透哉(とうや)。神央高校野球部の正捕手で次期キャプテン。   今まで、一目見ただけの誰かに心を奪われるなんて、今まで一度もなかった。それなのに今は名前も知らない彼女のことが気になって頭から離れない。この状況を変えたいとは思ったが、何しろ初めての事で、どうしたらよいか分からない。  しかし、数時間前、僕に奇跡が起きた。 『それが運命の相手なら、神様は二人を二度出逢わせる』  以前、野球部の誰かが言っていた。僕は『運命の神様』などの類は信じない方だから、そんな話を特に気にも留めなかった。でも、もしもいるとするならこういう事態を言うのだろう。  まさかこんな形であの『彼女』に会えるとは思っていなかった。これから部活が本格的に始まれば、僕は彼女の事を諦めていた。気にはなるだろうが、今の僕には、野球部の新キャプテンとしてするべき事が沢山ある。名前も知らない普通科の彼女を捜し出す余裕なんてなかったはずだ。  そして今日、偶然にも彼女に会った。『飛鳥楓』それが彼女の名前らしい。せっかく与えられたこのチャンスだ。僕は彼女に想いを伝えよう。佐竹透哉はそう考えながら、昼間ぶつかった相手を思い出していた。
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