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その日の夜。
『プルルルル……』
楓がスマホに目を向けると、知らない番号が表示されている。誰だろう? と通話ボタンを押した。
「はい……もしもし」
『あの、佐竹透哉なんだけど』
その名前に楓は一瞬固まり、姿勢を正した。
「今日は本当にすみませんでした」
電話にもかかわらず深々と頭を下げる。
『いや、僕も悪かったんだ。僕が咄嗟に避ければ、君だって転ぶことなかったのにごめんね』
楓の予想に反して、相手は優しい口調で答えた。
「いえ、そんな。ぶつかったのは私ですから。荷物大丈夫でしたか? 派手な音がしていたし」
『ああ、大丈夫だよ。それより飛鳥さん怪我はなかった?』
相手は楓の心配ばかりしている。
「ええ、大丈夫ですよ」
『良かった。怪我でもしていたらどうしようかって心配していたんだ』
この人、優しいんだ……かなり文句を言われるだろう覚悟していた楓は少し安心した。体育科の野球部、それも噂の人物とあれば、高慢で俺様的な人物を想像していた。
壊れた物を弁償するだけでは足りず、もしかしたら、慰謝料まで要求してくるかもしれない。そこまで覚悟していたのだが、予想に反して相手は優しい口調で楓の心配ばかりしている。
ホッとしている楓に佐竹透哉は続ける。
『あのさ、ところで飛鳥さんて良く図書室にいるよね』
その言葉に少し考える。この人、どこかで見たと思ったら、最近図書室で見たんだと楓は気がついた。
「えっと、あなたも居ますよね図書室」
『ああ、僕も本好きなんだ。突然なんだけど、明日良かったら図書室で会わない?』
楓も会ってきちんと謝っておきたいと思ったので頷く。
「いいですよ。でも私、部活があるんですけれど」
『それなら大丈夫だよ。来るまで待っているから』
相変わらず優しい口調で佐竹透哉はそう言って「じゃ、また明日ね」と電話が切れた。
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