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「礼央は優しいね」
「ふん、当然だ」
礼央が鼻を鳴らして偉そうにふんぞり返っているのを呆れながら見つつ、長年思い続けた自分の声を吐露出来たことに感謝している。
礼央の腕を引いて、講堂のドアを開けて中に入る。視線は感じたが、突き刺さるようなものではないし気にすることはない。というか、隼人くんは日常的に人の目を集めるから慣れたのもある。
「さ、礼央きゅん!次はあのテーブルに突撃だ!」
「普通にさっきみたいに礼央と呼べ」
「嫌よ♡」
テーブルを回るといっても、俺には友人が片手で数えられる人数しかいない。夏弥と結弦と…。礼央とか光輝先輩とかは先輩カテゴリだし、神楽坂先生は先生カテゴリだ。耀?知らない子ですね。
おっと、自覚したら少し悲しくなってきたな。打開策はないな。よし、諦めよう。諦めのよさは俺の特技だからな。
「そういえば、お前友人のところへは行かないのか?」
「は?」
「は?」
「オレニ、ソンナタクサン、ユウジンガ、イルトデモ、オモイッテイルンデスカ?」
「悪い」
「謝んなよ、悲しくなるだろ…」
両手で顔を覆って、おーいおーいとわざとらしく泣き真似する。礼央の可哀想なものを見る目が痛い。俺の強化ガラスのハートに突き刺さってる。
「大津」
「はぁ?」
礼央の声に反応して泣き真似するのを中断して前を見ると、俺の目の前に葵が立っていた。
刹那、俺の心に黒い靄がかかったような感覚に襲われる。吐き気が込み上げてくる。金属で殴られるような激しい頭痛もする。
やめろ、近寄るな、俺の前に立つな、俺を見るな、俺を俺を俺を俺を俺を俺を俺を‼︎
「宇都宮さ」
「俺に話しかけるな!俺の前に立つな!俺に近寄るな!俺の視界に入るな!やめろ、離れろ俺から早く!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ‼︎
葵に対する劣等感が湧き上がる。それと同時に憎悪が膨れ上がっていく。早くこの場から逃げろと警鐘が鳴り響く。
この場に居てはまずい。早急に離れないと、俺が壊れる。
「宇都宮!」
礼央や俺の異変に気付いて近寄ってきたであろう生徒会や光輝先輩の声がする。
最悪だ、膝から崩れ落ちた。立つのもままならない。隼人くんの葵に対する黒い感情に、俺の感情がまだ処理しきれていない。
今までは隼人くんの憎悪にも上手く付き合えてきたと自負している。けど、葵と接触してからはそのコントロールが上手くいかなくなっている。
でも、今回は異常だ。
きっかけは、何だ。
ここまで苛烈な憎悪に見舞われたのは初めてだ。
「隼人!」
俺を取り囲む生徒会と光輝先輩を押し退けて、俺の前に現れた夏弥の顔を見て酷く安心する。
俺の親友だ。
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