少しの罪悪感とキスの雨

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実は恭ちゃんは母の幼なじみであり、父の元生徒でもある。 そして当時の両親の関係を唯一知っていた人物だろう。 近所に住んでいた恭ちゃんは、私が生まれたときからずっとそばにいた。 いつも遊んでくれて、勉強も教えてくれた恭ちゃんを好きになるのはすぐだった。 本当の恋心に気づいたのは小学校を卒業する頃だったと思う。 恭ちゃんに本気の恋をした女子生徒が、恭ちゃんの家の前まで来て告白しているのを見た時だった。 それまでも『恭ちゃんのお嫁さんになる』なんて、子供がよく言うようなことを口にしていた。 でも恭ちゃんが告白されているのを見たとき、私は生まれて初めて嫉妬した。 まだ子供だった私より、恭ちゃんの隣がよく似合う綺麗な女子高生。 でも恭ちゃんの隣は渡したくない。 そこは私だけのもの。 恭ちゃん、私その人より綺麗になるから、私だけを見てて。 そう思ったのを今でも覚えてる。 中学生になって恋心を押さえきれなくなった私は、恭ちゃんに真剣に告白した。 そして恭ちゃんは喜んで受け入れてくれた。 高校受験の時、恭ちゃんが『俺の勤めてる高校においで』と言ってきた。 少しでも恭ちゃんの近くにいれるのは嬉しいし私の成績でも入れそうだったので受験し、今こうして先生と生徒としてこの学校に通っているのだ。 恭ちゃんに憧れを抱いている女子生徒が言う、『無愛想だけど、そこがカッコイイ』。 だけど今目の前にいる恭ちゃんは、びっくりするくらい緩んだ顔をしている。 彼女たちがこの顔を見たら、どんな反応をするのだろう? 私が知っている恭ちゃんは、いつも優しく笑っている。 そしてどちらかと言うと表情は豊かで、愛想もいい。 私が初めて恭ちゃんの授業を受けたとき、同姓同名の別人かと思うくらい無表情で驚いた。 この学校で私だけが本当の恭ちゃん知っているということに、少しだけ優越感を感じた。 「ねぇ、恭ちゃん。ここあんまり人が来ないのはわかったけど、誰かに見つかるかも知れないじゃない?だったら学校で会うよりも、家で会った方が安全な気がするんだけど?」 この空き教室は、入学したとき恭ちゃんが教えてくれた場所だ。 恭ちゃんは絶対に見つからない場所と言ってたけど、ここが学校である以上絶対とは言えないと思う。
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