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ほんの少しでも時間があれば、触れ合わずにはいられなかった。
身体の全てを同化させて、どこまでも高く昇らずにはいられない。
最初は指を絡めるだけ、唇を合わせるだけで良かった密事も、次第に貪り合うものへ変わってしまった。
場所も時間も選ばなくなり、事が発覚するのは時間の問題だった。
もちろん気づいている人もいるだろう。
今は、思春期の流行病だと見逃してくれているのかもしれない。
しかしもう、そんな言い訳も通用しなくなるだろう。
もう、十五歳になってしまった。
半年もすれば、義務教育も終了する。
子どもを隠れ蓑にできる時は終わったのだ。
「ん・・・」
濡れタオルで身体を清めている間、俊一が目を覚ますことはなかった。
ときどき、あわいため息をつくのみで、深い眠りにとらわれている。
綺麗な、俊一。
形の良い足のつま先に唇を落とした。
きっと、うすうす勘付いていたのだろう。
ここのところの俊一は片時も離れようとしなかった。
何度果てても、足を絡めて身体を離すことを拒絶する。
足を絡めて、腕を背中に回し、肩に歯を立てられた。
熱い身体の奥で覚の楔を離すまいと締め付けられ、正直、揺らいだ。
この身体を、この心を置いて、俺はどこに行くのだろう。
俊一なしで、どうやってこの先を歩けばいいのだろう。
だけど。
今の自分には何もない。
なんの力のない自分は、俊一のそばに立つことは許されない。
だから。
俊一を抱きしめるために、去らねばならない。
永遠を勝ち取るために、今を捨てよう。
「俊・・・。ごめん」
待てとは言えない。
待たなくて良い。
ただ、自分が自分であるために。
そして、俊一が幸せであるために。
今は、別れよう。
身なりを整えて、覚は扉に手をかけた。
ベッドの上にはシーツから白い肩を少し覗かせた俊一が、まるでおとぎ話の姫君のように眠っていた。
足を一歩踏み出す。
空は、うっすらと朝の光を帯びていた。
夏が。
夏が来る。
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