僕と死神

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 僕が名前を呼ぶとベリアルは口元を綻ばせた。  手袋をしている指先で器用に指を鳴らしてピースサインをしている。  何故僕がベリアルと名付けたのかは覚えていない。たぶん呼んでいた小説の中に出てきた名前のような気がしなくもない。  ただ何か他に意味を持っていたような気がするのだが思い出せなかった。  ベリアルは余程名前を呼ばれたのが嬉しかったのか華麗に宙を舞って暗闇へと消える。  ベリアルのスポットライトは画面の近辺で留まっているため、少し遠くへ行ってしまうと闇と同化してしまう。  何分経っただろうか。この世界に時間は存在しないのだからそれは分かるはずないのだが。 「大変お待たせしました。お待ちかねのビデオはこちら」  姿は見えないが闇の中から聞こえるベリアルの声に合わせ、砂嵐の画面が晴れた。 「次、俊樹君が担当するのはこの人。小島美奈子さん。七十七歳。すでに旦那さんは亡くしており一人息子とも疎遠の天涯孤独の身。期間は今までで最短の二週間。どう?楽ちんでしょ」  画面の中の老婆は布団の中で身動きもしないで眠っている。はたから見たら死んでいると勘違いされそうな寝相の良さだ。
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