見知らぬ彼氏

2/10
1617人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
★ 瞼を開けると白い天井が見えていた。長い蛍光灯を見つめてから、少し首を動かしてみる。 消毒液のにおい、それに腕にささった管。管を辿ると何か点滴をしているようだ。 顔の向きを変えてみると、窓のそばに見知らぬ男性が立っていた。 私の視線に気がついたのか、こちらを向いた男性。ツーブロックショートヘアをジェルで艶っぽくまとめ、高級そうな生地のスリムなネイビースーツを着ている。 「気がついたのか? 舞」 窓から離れベッドに近づいてくる男性。 「私の名前……知ってるんですか?」 「変なことを聞くな。お前の事なら……」 男性の長い睫毛を見つめた。 手が伸びてきて、私の頭は見知らぬ男性にポンポンと撫でられていた。 「名前以外にも全てを知ってる」 「え?」 見知らぬ男性は、ベッドに横たわる私の耳元にそっと近づいてくる。 そして、低めな声で囁いた。 「左太腿の内側に小さなホクロがふたつあるのも知ってる」 「え!……どうして?」 布団を鼻まで上げて、体全体を隠すようにしながら見たことの無い男性を警戒し眺めた。 「どうしても何も、知ってるに決まってるだろ、舞は俺の……」 オシャレで品の良さそうな男性は、布団に隠れた私に顔を近づけ瞳を覗き込んできた。 「なっ…」 「大切な彼女だからな」 目の前には、やはり見知らぬ男性の顔があった。 ……彼女? 知らない。こんな人知らない。最近、彼氏が出来た記憶が無い。 ふと頭へ手をやると、包帯らしき布に触る。 「頭が痛むのか? 電車の中で倒れた時に手すりに頭をぶつけたらしいからな」 心配そうに私の後頭部に触れる男。 「あの……あなた、どこかの病室と間違えてませんか?」 ベッドに起き上がった私が変なことを言い出したみたい眉間に皺を刻む男。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!