身辺捜査

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「やっぱり見せられないよ。私に来たメールだし」 「ふん、じゃあ、いいわよ。自分で返信しなさい」 「返信?」 「そ、今すぐ会いたい。うちの会社近くにあるタイ料理屋に来てって返信しなさいよ」 「なんでまた、タイ料理屋?」 私は、戸惑って百合を見た。 「さっき、タイ料理屋でもいいって言ったじゃない」 「あれはさぁ〜」 「いいから、タイ料理屋に呼んでよ」 「ハルを呼ぶの?」 「そおよ。彼氏なんでしょ? 呼びつけたって構わないじゃない。それに」 私の肩をガシッと掴んで、私の顔、特に瞳をじぃっと覗き込む。 「あんたも会いたいんでしょ? 騙されてるかもしれない見知らぬ彼氏に」 「え! えっと……心配してるかもしれないから元気な顔を見せたいというか……なんというか」 あたふたして、百合から目をそらした。 「バカよねーーホント。疑わしい男に恋するなんて」 呆れたようにして百合は私の肩から手を離す。 「恋?!」 ハルに恋してる? そりゃあ、彼氏なんだったら当然好きなはずだから、恋してるのも当然だ。 「やっぱり……思うんだけど。ハルは本当に私の彼氏なんじゃないのかな?」 百合は呆れたように大きくため息をついた。 「あんた、それ本気?」 「え、だって……私もハルが好きみたいだし」 「実は隠れ面食いだもんねーー舞。イケメンだから好きなんでしょう?」 ひとりで大きく頷いている百合。納得の表情だ。 「ち、違うよ。性格が優しいの! 本当だから」 「ムキになんないでよ。もういいからさ、早く呼びなさいよ。私が近くにいて詐欺師を観察するんだから」 「え、一緒に食べないで、観察するの?」 「当たり前じゃない、その為に呼ぶのよ」 偉そうに胸を張る百合。 声高らかに夜空を仰いで宣言してみせた。 「題して……おとり作戦Aよ!」
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