2

5/16

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
「おはよう」 「おはよ」  哉菜の挨拶に、まず水嶋が、いつもと同じ抑揚のない調子で返した。次に、水嶋の向かいに座っている生徒が振り仰いで、 「ああ、おはよう」  と、哉菜を見た。  その席が誰かのためにとってあるわけではなさそうだと判断した哉菜は、鞄を椅子にのせ直すと、朝食を取りにカウンターへ向かった。  ほとんどの寮生が一同に集まるこの時間が、一日の内で最もこの場が込み合う時間帯となる。しかし、今日はいつもよりテーブルに空席が目立っている。 (あ、そうか。一年……)  入学式のある今日、新一年生はまだ寮にいない。よって今この場は、単純に考えるなら普段の三分の二の人数になる。  人数が多かろうが少なかろうが、不思議な空間だと思う。見渡す限り同年代の女子しかいない食堂。一年前、初めて入った時には違和感が付き纏ったこの場所だが、いつの間にか当たり前になっていた。「いつの間にか」と簡単に言ってしまうが、その瞬間は、いつ訪れていたのだろう。必ずあったはずなのに、気付けなかった。  非日常が日常になり、それまでの日常を忘れかけている。抜け出したくて仕方のなかった日常だったから、忘れてしまえるのはいいのだけれど、もしいつか戻らなければならなくなった時、今を知ってしまった自分に、耐えることができるのだろうか。  考えると憂鬱になる未来を振り払うように、一度、強く息を吐いて、哉菜は朝食をのせたトレーを持ってキープした席へ戻った。  椅子に座った途端、 「九条紫月と過ごした一夜はどうだった?」  来るだろうなと思っていた質問がよこされた。 (どうと言われても……) 「普通」  斜め前と左横から四つの目で凝視され、哉菜はしっかりと答えを探してから言ったのだが、 「なわけないやろ」  即座に却下される。 「――寝つきが悪かった」 「九条さんの?」 「私の」 「怒られるで?」  紫月のファンのことを言っているのであろう友人のコメントに(確かに)と納得して、目の前のハムエッグにフォークを伸ばす。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加