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校門をくぐって昇降口に行き着く前にある掲示板の周辺、グレーの制服に身を包んだ生徒たちが悲喜こもごも、声を響かせて集まっていた。新学年のクラス割が張り出されているのだ。哉菜も、友人たちと一緒にその場に辿り着く。 「クラスまで離れちゃったら、あたし、泣いちゃうよ?」  すでに泣きそうな顔で言う光に小さな苦笑を浮かべ、哉菜は掲示板を見上げる。 (二組……)  自分の名前を確認してから、同じ組の欄に書かれた他の生徒の名前を眼で追っていく。一学年四クラスしかないので、新しいクラスに知り合いが誰もいないということにはならない。友だちになると話はかわってくるのだが、哉菜と同じクラスには水嶋と由華悧の名前があった。 「光に八つ当たりされるな」  並んで掲示板を見上げていた水嶋が小さく呟いた。苦笑いで水嶋の方を見ると、彼女の向こう側にいる由華悧と眼が合い、彼女も同じように笑った。  光が向けてくるあの好意は、時に哉菜を気持ち良くさせ、時に、困惑させる。 種類がどういったものであれ、ああも真っ直ぐに、一人の人間を好きだと言って憚らない素直さは、哉菜の中に存在しない。人から好きだと言われれば嬉しいし、気分も良い。しかしその一方で、彼女のその素直さを疑っている自分を知る。  自分という人間に魅力がないとは思っていない。容姿も成績の良さも自覚しているし、努力もしている。でも、人が人を好きになるのはそれだけが理由でないことは誰しもわかっていることだ。面倒見の良さと人当たりの良い性格を加えたところで大差はない。向けられる好意を否定する気はないが、理由がわからない上に、目には見えない他人の気持ちを鵜呑みすることはできない。またそれとは別に、出会って漸く一年が経っただけの赤の他人に己をさらけ出せるその精神構造が理解できない。  昨日と同様、もしかしたらそれ以上の勢いで駄々をこねる光を、茉莉と二人で宥め賺しながら三階の教室へ移動する。 「クラス替えなんてなかったらいいのにッ」  自分の教室へ進もうとする哉菜に光が口を尖らせる。去年はここにいる五人全員が同じクラスだったのだ。今年は、光が一組で茉莉が三組。他三人が二組となった。 「他にも友だちはいるんだから何とかなるでしょうが」
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