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 素っ気ないようでいて、どこか仲の良さを感じる普段通りの二人の会話に、電話番の少女は水嶋の「何でもない」を信じたようだ。小部屋に戻って数学の問題集を再開した。  先に歩き出した水嶋の後姿を見送ってから、哉菜は彼女とは違う方向に歩き出す。先程言った通り、食堂へ向かうつもりだった。  急ぐ必要もないのでゆっくりと歩く哉菜は、電話を切ってからずっと胸の中に燻っている何かを吐き出そうと、深く吸い込んだ息を強く長く吐いた。当然、肺の中にあるわけではない何かは、そんなことでは出て行かず、哉菜の胸の中から不快感が去ることはない。無駄だとわかっていても、深い溜息にも似た深呼吸が止められず、次第にそれはより深く忙しなくなり、気が付けば、少しずつ速度が落ち、いつの間にか足を引きずるようにして進んでいた歩みは、完全に止まってしまっていた。その頃には、呼吸はもう尋常な状態ではなくなっていた。パニックに陥ってしまいそうになりながらも、そうはなりきれない冷静な頭が周りを見渡し、人がいないことを確かめ、同時に、紙袋かビニール袋が落ちていないかを探す。しかし掃除の行き届いた廊下には余計なものなど何もなく、諦めた哉菜は、吸うとしゃくり上げてしまうのを、息を止めることでどうにか押し留めて、五歩ほど進んだところにある外へと通じるドアへ、焦って縺れた足取りで辿り着き、冷たくなってきた右手でノブを回し、少しの隙間から外へ出た。すぐに後ろ手でドアを閉め、扉に沿ってしゃがみ込み、口と鼻を一緒に抑えていた左手を離すと、慎重に息を吐き出した。息がなくなるまで吐ききって、もう無理。というところで恐る恐る空気を吸い込んだ。ゆっくりと吸えたのは最初の一秒だけで、ダメだ。と思った時にはしゃくり上げ、過剰な酸素を肺の中に入れてしまう。すると、両方の目から涙が零れ出た。 (どうしよう…ッ。何か、袋……)
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