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再び息を止め、次にまた、細く、長く吐き出して周りを見るけれど、やっぱり何もなくて、目に入るのは足首くらいまで成長した雑草ばかり。もう吐き出す二酸化炭素が肺の中からなくなりかけた時、履いているデニムのポケットに入れてあるはずのハンカチの存在を思い出した。何もないよりはマシかもしれないと、取り出したそれで口と鼻を覆う。両手で押さえたハンカチの中で浅く息を吸い、今度はしゃくり上げる前に吐き出した。吐くことに重点を置いた不自然な呼吸を、荒い息遣いで何度が繰り返す内、もう大丈夫だと思える状態まで、何とか回復してきた。それでも用心深く、ゆっくりと、吐いた分の空気だけを鼻から吸い込む。それを三度繰り返した。
(うん。大丈夫)
まだ深く吸い込むと、また一からやり直しになる状態ではあるのだろうが、それを確認するのは嫌なので、とりあえずはいいだろうと、ハンカチをポケットにしまって立ち上がり、お尻を軽く叩く。
(しばらく笑えないな)
深呼吸もできない。大声を出すことも、走ることもしてはいけない。
両手でそれぞれの手の温度も回復していることを確かめて、何が「大丈夫」なんだと自問しそうになって、はっきりと言葉にする前にやめた。
ドアを開けて廊下に戻り、食堂へ行く前に、俯き加減で足早に、途中にあるトイレに入る。幸いにも誰もいない手洗い場の鏡の前に立つと、目の前に映った自分を見つめて、涙を流した痕跡を探す。じっくり見ないとわからない程度に充血した両の目を見つけ、これくらいなら気付かれることもないだろうと判断して、それでも念のため、両手で擦ってみる。
(よし)
目から離した両手で前と横の髪を掻き上げ、意志の強そうないつもの眸を確認してトイレを出た。
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