2

15/16

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/132ページ
 食べることに集中していた手と口を少し休めて周りに眼をやると、さっきよりも食堂内の人口密度が上がっていた。水嶋曰く「たらしこんだ」一年生の座る席との間には、三年生のグループが座っていて、彼女たちの姿は見えなくなっていた。由華悧の席をキープしておいてあげた方がいいだろうかと考えていると、 「空いてる?」  後ろから声がして、 「空いてるよ」  水嶋が答え、哉菜の隣に夕食ののったトレーが置かれ、茉莉が腰を下ろした。 「一人?」  哉菜が尋ねると、茉莉は首を振ってから、 「光と一緒」  少し後ろを振り返って答えた。同じように振り返ると、光がこちらに歩いてくるのが見えたので、小さく微笑みかける。それを受けた光は、嬉しそうに、満面の笑みで足を速めた。 「早いね」  水嶋の隣に座った光に言われて、 「そう?」  と応え、食事を再開した。水嶋はすでに完食して食後のお茶を飲んでいる。 「九条先輩は? 一緒じゃないの?」  スプーンでオムライスをすくって口に入れる直前に手を止めた体勢で、光が哉菜を見る。 「うん。私が部屋出た時にはまだ帰ってなかったら。――もうすぐ来るんじゃない?」  いつもより早い時間に部屋を出たことを知らない光に、それ以上の説明はせず、何の根拠もない予想を伝える。 「ふうん」と相槌を打つ光を、茉莉が、 「目の前に哉菜がいるのに、もう目移り?」  からかう笑みで覗き込む。 「早」 「そうなんだ……」  思いがけない茉莉の言葉に、光が答えを詰まらせていると、その隙に、水嶋と哉菜が呟く。 「違うよ! そんなんじゃないってばッ。今日は一緒に来なかったんだなって思っただけじゃん!」  必死の様子の光に哉菜と茉莉が笑い、水嶋は関心のない態度で頬杖をついて三人を見ている。  いつもと変わらない食堂の、居心地の良い空間。  心の隅に巣食う、訳のわからない不安や鬱々とした感情が消えることはないけれど、無視することや、一時的に忘れることはできる。  考えるな。思い出すな。 (そう思うことがすでにアウトなんだけど)  でも今は、それしか術がない。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加